Uplifters No. 26 |
前置きの長い話です。Oprah Winfrey(オプラ・ウィンフリー)という変な名前のアメリカ人がいます。その人物は成人するまで自分の名前が嫌だったと語っているので、「変な名前」と言うのは失礼にあたらないでしょう。黒人女性です。生年は1954年。職業はテレビのトークショーのホスト、日本流に言えばテレビの司会者です。
「アメリカの『みのもんた』」のような存在だが、デーブ・スペクターに言わせると「もう少し知的な人」と、インターネット百科事典のウィキペディアに紹介されています。「みのもんた」は知的でないとは語弊がありますが、後で話すように、この人のもつ社会的影響力は「みのもんた」の比ではありません。あえて比べれば、黒柳徹子の方が近いかもしれません。
このオプラが一昨年の12月にアイオワ州の州都・デモインで演説をしました。その翌年、2008年1月3日に行われた米大統領予備選挙の応援演説でした。アメリカ政治に詳しい方はよくご存じですが、米大統領選挙の本番はアイオワ州の予備選挙(党員集会)で幕が開きます。この中西部の小州の予備選の結果が、各陣営の緒戦の勢いに大きな影響を与えます。今回の勝者は、民主党ではバラク・オバマ候補でした。
予備選に先立つ12月、オプラは当時まだ民主党候補の中では、とても本命とは言えなかったオバマ候補の応援演説をしたのです。オプラは自前のトークショーをもち、若者や女性の間で絶大な人気を博しています。資産家として、さまざまな社会貢献事業にも熱心です。切れ味鋭いトーク、絶妙なユーモア、それに社会問題への献身が加われば、『タイム』誌が世界でもっとも影響力のある人物の一人としてオプラを取り上げたのもうなずけます。
昨年1月のアイオワの民主党党員集会には、これまで選挙に現れなかった若者たちが大勢投票に来たと言います。もちろんオバマの魅力が一番大きかったのでしょうが、オプラが掘り起こしたオバマ支持者もかなりいたのではないでしょうか。それほど12月のオバマ決起集会でのオプラの演説は人の心を震わせるものでした。
話が変わります。アメリカで1974年に”The Autobiography of Miss Jane Pittman”(ジェーン・ピットマン自伝)というテレビ・ドラマが放映されました。同じ題名で原作本もあります。物語はジェーン・ピットマンという110歳になる黒人女性が、1960年代初頭のルイジアナで、公民権運動の若者に奴隷時代の体験を回想するかたちで始まります。このドラマのあと、『ルーツ』という黒人奴隷の物語がつくられテレビで放送されますが、その先駆けとなった番組です。
その物語の中で、こんな場面が出てきます。ピットマンの回想です。
奴隷時代、プランテーションで赤ん坊が生まれると、親たちは子どもをピットマンのところに連れてきて神への祈りを捧げた。ピットマンは赤ん坊を抱いたまま腕を天に突き出して、その子に向かって「見よ、汝よりも偉大なるお方を」とアフリカの祈りを捧げる。そして、そのあと赤ん坊を腕の中に抱きかかえながら、耳元にそっとささやいた。”Is you da one?”(お前かな?)。ピットマンは連れてこられたすべての赤ん坊に同じことをした。
「お前かな?」は奴隷として虐げられていた黒人たちの救いを求める呻きです。黒人を奴隷の地位から助け出してくれる救世主を探し出すためというか、そういう勇敢な大人に育ってほしいという願いから、ピットマンは赤ん坊の耳元で囁き続けたのです。
オプラはその逸話を紹介しました。”Is you da one?”という奴隷言葉ではなく、”Are you the one?”という「いまの表現」を使って。そして、演説の最後をこう結びます。”He is the one.”(彼がそうだ)。「彼」とはバラク・オバマのことです。
オバマはスピーチの達人で、日本でも何本かの演説を収録したCDまで発売されています。でも、この大統領選で私が一番感銘を受けたのは、このオプラ・ウィンフリーの応援演説です。
蛇足ですが、ジェーン・ピットマンは架空の人物です。
こちらがオプラ・ウィンフリーの演説です。