Uplifters No.41 |
アメリカは、日本と比較しての話ですが、政治への女性の社会進出が進んでいます。たとえば、国会議員の比率や政府の幹部職への登用を見れば、それなりに納得します。ただ、そんなアメリカでも、なかなか女性が入り込めなかった分野があります。司法です。
国の成り立ちも影響して、この国の司法府は立法府とも行政府とも一線を画して孤高の存在として屹立している風に見えます。そのことが、たとえば合衆国連邦最高裁判所に独特の風格を与えています。最高裁判所判事の定員は長官を入れて9人。任命は大統領の指名の後、上院での承認を得て行われます。この上院承認プロセスは、野党議員のネチネチとした質問に耐えねばならず、判事候補者にとっては胃の痛くなる難行です。しかし、いったん承認を得ることができれば、その立場は終身、保障されます。合衆国憲法にも「善行を保持する限り、その職を保つ」と規定されています。「善行(good behavior)」とは「生きている」ということです。
こうした古い伝統と高い格式は新参者には冷淡です。アメリカの司法の砦は女性の進入を拒み続けました。ようやく女性の最高裁判事が誕生するのは1981年のことです(日本で最初の最高裁判所判事が選ばれるのは1994年)。
その最初の女性判事の名前がSandra Day O’Conner(サンドラ・デイ・オコナー)。その次に選ばれたのが、Ruth Bader Ginsburg(ルース・ベイダー・ギンズバーグ)。1990年のことです。現在の女性判事の数は3人(日本は2人)。
前置きが長くなってしまいましたが、今号のアップリフターは、2人目の女性判事、ギンズバーグさんの言葉です。2010年秋カリフォルニアで、ギンズバーグさん(現職)とオコナーさん(判事を退任)をゲストに招いて、”The Legendary Architects of Change”(世界を変えた偉人たち)というセションが開かれました。全米女性会議(The Women’s Conference)の一コマです。
ここで、司会者が「自分の人生を切り拓いていく上で何をしなければならないか、また何をしてはならないか」と質問します。
それに対する答えに、私は会場を埋めた女性参加者といっしょに爆笑してしまいました。ところで、その返答を紹介する前に、ギンズバーグさんの風貌と口調をちょっと紹介しなければ、その可笑しさと微笑ましさが十分に伝わってきません。ギンズブルグさんは77歳。年をとって体も小さくなったような、見るからに「おばあちゃん」という感じの女性です。また、茶目っけのあるかわいらしいしゃべり方をします。これに対して、もう一人のオコナーさんは80歳でもかなり若々しい感じのする、またしゃべり方も力強い「矍鑠(かくしゃく)たる老人」という風格です。そのコントラストが、まず見る人の目を引きます。
ギンズバーグさんはこう言いました。
“The best advice I ever got and came from my mother-in-law on the day of my marriage. We were married in her home. She called me into the bedroom, and she said, ‘Dear , I want to tell you something that stands you in good state, and that is in every happy marriage it helps sometimes to be a little deaf.’ And that is the advice that I followed not only in my marriage but in dealing with my colleagues.”
「これまでに受けた一番のアドバイスは、結婚式の日に義理の母がくれた言葉。結婚式は夫の家で上げたんだけど、そのとき義母が私を別室に招いて、こう言ったの。『あのね、結婚がうまくいく秘訣を教えてあげるわ。それはね、ときどき聞こえなかったふりをすることよ』。で、そのアドバイスを私は結婚生活でも、仕事の付き合いでも守ってきたの」
ギンズバーグさんは「聞こえなかったふり」のところで、ちょっとためをつくって、いとおしげに”a little deaf”と言ったのです。しなやかな「偉人」の言葉に、私はほほ笑み心が満たされました。(この模様を見たい方はYouTubeでチェックを)